認知症のおばあちゃんの頭の中を覗いてみたくありませんか?
総合評価
★★★★★
ミシンと金魚
作者:永井みみ
この本をおすすめな人
- 人生について考えてしまう方
- ある程度の年齢を重ねた方
- 認知症のことを知りたい方
あらすじ
【第45回すばる文学賞受賞作】認知症を患うカケイは、「みっちゃん」たちから介護を受けて暮らしてきた。
ある時、病院の帰りに
「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」
と、みっちゃんの一人から尋ねられ、カケイは来し方を語り始める。
父から殴られ続け、カケイを産んですぐに死んだ母。
お女郎だった継母からは毎日毎日薪で殴られた。
兄の勧めで所帯を持つも、息子の健一郎が生まれてすぐに亭主は蒸発。
カケイと健一郎、亭主の連れ子だったみのるは置き去りに。
やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が、だんだん膨らみだす。
そして、ある夜明け。
カケイは便所で女の赤ん坊を産み落とす。
その子、みっちゃんと過ごす日々は、しあわせそのものだった。
それなのに――。
暴力と愛情、幸福と絶望、諦念と悔悟……絡まりあう記憶の中から語られる、凄絶な「女の一生」
アマゾンより
良い点
- 主人公のカケイおばあちゃんが魅力的
- 認知症の人の思考を覗いたような気持ちになれる
- 人生とは、生きるとは、と考えさせられる
悪い点
- 年齢を重ねた人にしか良さがわからないかもしれない。
- ハッピーエンドではない。
感想
「みっちゃん」がたくさん出てきて戸惑った。
あの人もみっちゃん。
この人もみっちゃん。
優しいみっちゃん。
そうでもないみっちゃん。
みっちゃんは誰だ?
本物のみっちゃんはいるのか?
そんな混沌とした始まり方をする。
なぜなら主人公のカケイおばあちゃんは認知症だから。
混沌としたまま話は進む。
やがてみっちゃんの謎が少しずつ明かされて行く。
それはカケイおばあちゃんの悲しい思い出と共に。
女性が搾取されるのが当たり前だった時代を生き抜いてきたカケイおばあちゃん。
そんなカケイおばあちゃんの生きること、暮らすこと、過去のこと、現在のこと。
苦しかったこと。
ほんの少しの幸せだったこと。
作者の永井みみさんは現役のケアマネジャーということで認知症の人のことをよく知っておられる。
昔のことはよく覚えていて、まるでさっきの出来事のように語りだす。
昨日のことはおろか、ついさっきしていたことも思い出せないのに。
でも自分にとって強烈な印象の出来事は最近のことでも心に残って時々出てくる。
実は私も介護の仕事をしているのでこのような認知症と呼ばれる方に接することは多いのです。
それが驚くほどリアルで…
ああ、彼ら彼女らはこのような思考の中で生きているのかもしれないとあらためて感じました。
身近に介護や高齢者の問題がある方はもちろん、そうでは無い方も、きっと引き込まれて最後まで飽きさせない。
そんな力のある作品です。
いや、むしろ認知症や介護にまったく興味がない人にこそおすすめしたい!
みんないつか行く道なのだから。
総合評価
総合評価
★★★★★
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恍惚の人
1982年刊行という古い作品とあって認知症と介護者の状態は今とは違い家族が担っていた。
しかし時にはユーモアも交えた作品で認知症について興味深く知るきっかけとなる。
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年を重ねるにつれて親も年老いていく。
そんな悲しい現実を面白おかしく描いた作品。
吉田羊主演でドラマ化も。